製造業の営業は、覚えることが多い仕事です。製品知識、業界の慣習、図面の読み方、見積の作り方、社内の誰に何を頼むか。これらが体系立てて渡されないと、新人は「先輩に付いて回るだけ」の期間が長引きます。この記事では、独力で立ち上がるために何を、どの順で渡すべきかを整理します。
立ち上がりが遅れる3つの原因
- 「見て覚えろ」で判断が渡らない:同行で見えるのは、話している内容だけです。先輩がその場で何を判断したかは、外からは見えません。
- 網羅してから出そうとする:全製品を覚えてから訪問、という順にすると、いつまでも現場に出られません。覚えた知識も、使わないまま忘れます。
- 「一人立ち」の基準がない:何ができたら任せるのかが決まっていないと、同行が惰性で続きます。本人も、どこを目指せばいいか分かりません。
最初の30日で渡すもの
すべてを渡す必要はありません。最初の1か月は、狭く深くです。
- 製品を1つに絞る:主力の1製品だけ。「これなら1人で説明できる」を先に作ります。
- そのお客様を3社だけ決める:業種も規模も違う3社。同じ製品でも、相手によって刺さる点が違うことを早い段階で体験させます。
- よくある質問と答えを10個渡す:これが最も効きます。現場で聞かれることの大半は、実は決まっています。答えられる状態で行けるかどうかで、初回訪問の自信がまったく違います。
- 断られ方を3パターン渡す:「間に合ってる」「高い」「実績が無い」。何を言われるか分かっていれば、固まりません。
同行の使い方を、段階で変える
同行を漫然と続けないでください。3段階に分け、切り替える日を先に決めます。
- 第1段階:見せる(先輩が話す/新人は聞く)
- 第2段階:やらせて、横で見る(新人が話す/先輩は黙って見る。ここが最重要です)
- 第3段階:一人で行かせて、あとで聞く(何を聞かれたか、何に困ったかを報告してもらう)
第2段階に入る日を、あらかじめカレンダーに入れてください。「そろそろ任せてみよう」と思ったときに切り替える方式は、たいてい遅れます。失敗しても取り返せる相手を選べば、リスクは管理できます。
訪問後に、必ず聞く3つ
同行や単独訪問の直後、10分でいいのでこれを聞いてください。教育効果が大きく変わります。
- 「何を聞かれて、答えられなかった?」——これがそのまま、次に渡すべき知識です
- 「どこで迷った?」——判断が渡っていない箇所が分かります
- 「次はどうする?」——自分で決める練習になります
1つ目で出てきたものは、記録して蓄積してください。次の新人に渡す「よくある質問集」が、勝手に育ちます。
「一人立ち」の基準を、行動で決める
期間ではなく、行動で定義します。たとえばこう書けます。
- 「主力製品について、初見のお客様に15分で説明できる」
- 「標準的な条件の案件で、先輩の確認なしに見積の確認項目を埋められる」
- 「技術部門に相談すべき条件を、自分で判断できる」
「理解している」ではなく、やって見せられる形にしてください。基準が決まると、本人も自分の位置が分かり、指導側も判定に迷いません。この考え方はOJTがバラバラになる問題と共通です。
教える側の負担を増やさない
新人が入るたびに同じ説明を繰り返していると、その時間は人数分そのまま消えます。「書くのは1回、使うのは何回でも」——最初の1人のときに、次の3つを作っておいてください。
- よくある質問と答え(10個から)
- 断られ方と、そのときの返し(3パターン)
- 相談の線引き(この条件を超えたら技術に相談、など)
これは営業マニュアルの中核でもあります。トークスクリプトを配るより、はるかに実用的です。
まとめ
- 立ち上がりが遅れる原因は3つ。判断が渡らない/網羅してから出そうとする/一人立ちの基準がない。
- 最初の30日は狭く深く。製品1つ、お客様3社、よくある質問10個、断られ方3パターン。
- 同行は3段階。見せる → やらせて横で見る → 一人で行かせる。切り替える日を先に決める。
- 訪問後に「答えられなかったこと/迷ったこと/次どうするか」を10分聞く。
- 一人立ちの基準は行動で書く。「理解している」では判定できない。
新しく入った人が独力で立ち上がる仕組みの設計は、私が現在も担当している領域です。まずは15分の相談から。